1. はじめに:鳥獣被害の問題と「えづけSTOP!」の志
「どうせ柵は2,3年しか効果がない」
対策支援のためにお伺いすると、そんな無力感を嘆く声をしばしば耳にします。
そんな無力感を断ち切るために熊本県が提唱しているのが、「集落で行う」対策の優先順位を明確にした「えづけSTOP!」対策の4ステップです。
- STEP 1:みんなで勉強(正しい知識の習得)
- STEP 2:環境整備(よせつけない工夫)
- STEP 3:柵で守る(侵入防止の徹底)
- STEP 4:捕獲(加害獣の除去)
この記事では、この4ステップのうち最もコストパフォーマンスの高い『勉強』の具体的な効果について、国や研究機関のデータを基に解説します。
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2. 【データが証明】闇雲な捕獲・柵設置は無駄?「みんなで勉強」が最重要な理由
「勉強なんて後回しでいい、早く捕まえろ」という声が聞こえてきそう(実際言われたことがあります)ですが、現実は非常に厳しいものです。
衝撃的な事実:対策の「量」は「結果」に比例しない
財務省が令和6年6月に発表した調査結果(予算執行調査 令和6年6月)では、驚くべき事実が指摘されています。
捕獲数を増やしても、あるいは柵の距離を伸ばしても、被害減少額との間に明確な相関関係は見られなかったのです。
縦軸は被害減少額(H30-R4)
0は被害額の増減がない
プラス(上)に行くほど被害が減少
マイナス(下)に行くほど被害が増加
横軸は捕獲頭数計(H30-R4)
右に行くほど捕獲頭数が多い
縦軸は被害減少額(H30-R4)
0は被害額の増減がない
プラス(上)に行くほど被害が減少
マイナス(下)に行くほど被害が増加
横軸は捕獲頭数計(H30-R4)
右に行くほど捕獲頭数が多い
捕獲や柵の効果がしっかり発揮されているのであれば、捕獲数や柵の総延長が増える(右に行く)ほど、被害の減少額が増える(上に行く)はずなのでは・・・?
しかしながら、残念なことにそうはなっておらず、被害の減少額は捕獲数や柵の総延長に無関係に見える。ということです。
つまり、「闇雲に捕るだけ」「ただ柵を立てるだけ」では、お金と時間を捨てているのと変わらない可能性があるということです。
侵入防止柵の約8割に「不備」:勉強していれば防げたはず
さらに同調査では、柵を立てているのに被害が出た箇所のうち、約8割に設置・管理の不備がありました。このことこそが、柵の総延長が長くても被害が減らない原因でした。
- 柵の高さが足りない(法面と同じ高さで飛び越え放題)
- 柵と地面との間に隙間がある(掘り起こされて侵入)
- 草刈り不足(電気柵が漏電して機能停止、または動物から見えない)
これらはすべて「動物の能力や生態」や「正しい手法」を知っていれば防げたミスです。「みんなで勉強」が必要なのは、こうした「間違った対策」による労力と投資の無駄を避けるためなのです。
意識から外れがちな環境整備(近寄せない対策)こそ重要
財務省はさらに次のことを指摘します。
「「生息環境管理」※を実施している」と回答した市町村は、未実施又は不明と回答した 市町村と比して、被害減少額が大きい 」※熊本県の4ステップでは「環境整備」と呼んでいる

「柵を張ればいい」「とにかく捕まえればいい」となりがちな獣害対策。
実は農家・住民にも取り組みやすい「環境整備」と組み合わせることで、柵や捕獲の効果をより高められることをデータにより示しています。
対策を始める前にきちんと「環境整備」のことも学んでおかないと、せっかくの柵や捕獲の効果を十分に引き出すことができないということですね。
また、座学での知識習得ももちろん大切ですが、それ以上に重要なのが住民全員で行う「集落点検」です。動物の目線で集落を見ることで、これまで見過ごしてきた被害の原因が驚くほど見えてきます。
- 収穫残さ(クズ野菜): 畑に捨てた野菜は、動物にとって「ごちそう」です。
- ひこばえ(二番穂): 収穫後の切り株から実る穂。これも絶好の餌になります。
- 放任果樹: 庭先のカキやクリ。人間が食べなくても動物は呼び寄せられます。
これらはすべて「無意識のえづけ」です。集落全員で「何が餌になっているか」という目線を揃えない限り、頑張って柵を立てても、野生動物は次々と集まってきてしまいます。
3. データが証明する「勉強」の効果
電気柵の不備の出現率は、勉強により4分の1程度まで減少する
2016年に公表された農研機構東北農業研究センターの調査結果では、ステップ1の「勉強」の効果をはっきりと証明しています。
電気柵についての普及指導を行った集落と行っていない集落とでは、その後に設置した電気柵の不備(エラー)が4倍も違ったのです。
不備(エラー)の少ない設置は、柵の侵入防止効果をしっかりと引き出してくれます。つまり「勉強」こそが、最もコストパフォーマンスの高い投資なのです。
【図・表】普及指導の有無による電気柵設置方法の不備(エラー)の出現率
| 集落代表者等への普及指導 | エラー出現率 | |
|---|---|---|
| A集落 | ・メーカーによる口頭指導+ ・専門家による ①電気柵の運用方法を含む獣害対策全般について解説、相談、助言 ②設置作業初日の助言 | 15% |
| B集落 | メーカーによる口頭指導のみ | 57% |
※エラーは4mごとに測定。
※エラー出現率は、4m線分の数のうちエラーのあった4m線分が占める割合
※エラーの主な種類は、
・柵線の高さの誤り
・通電性の疎外(アスファルトから近いなど)
・ガイシの向きの誤り
繰り返し学ぶことが大事
上記の研究報告では、A集落に対し、週1回から月1回ほどの頻度で計43回の介入(指導や相談、助言)を行ったとされています。
この繰り返しの重要性は、私たちも身にしみて感じているところです。
勉強会の数か月後、もう一度集落を訪れ、勉強会のときにもお話したことを改めてお伝えしたところ、「初めて聞いた!」という反応をされることも少なくないからです。何度も同じことをお伝えし、現場で実物を見て学ぶことで、正しい知識の定着が図られました。
一方、43回も介入しても15%の不備が残るのか、と感じてしまいます。
しかし、この15%の内容をよく見ると、地形に由来する柵線の高さの誤りだったようです。
つまり、地面のデコボコなどのせいで、柵線の高さを20㎝、40㎝にキープできていないという不備です。
地面のデコボコや水路などへの適切な対処は、整地や支柱の追加、追加の柵線をのれん状に垂らすことなどであり、比較的難易度が高いものです。
こうした不備をなくすためには、設置前に設置ルートを指導者とともに点検し、そうした箇所での対処の仕方を事前に学んでおくことや、設置後の点検研修などが有効です。
実際に私たちがそのように対応した集落の電気柵は、不備のほとんどをなくすことができました。
4. まとめ:地域を守る第一歩としての勉強
「柵を張れば安心」?
「イノシシをたくさん捕れば安心」?
残念ながらそう甘くはないのが獣害対策です。そんなに甘いのであれば、とっくの昔に獣害は解決していることでしょう。
闇雲に対策を実施するのではなく、少し立ち止まって「勉強」から始めること。
それが地域を守る第一歩です。
そんな第一歩をともに踏み出しましょう!

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