集落でのイノシシ・シカ対策4ステップ!熊本県「えづけSTOP!」4ステップで被害をなくす方法 

目次

1. はじめに:鳥獣被害の問題と「えづけSTOP!」の志

「せっかく作ってもどうせ食べられる」

「対策しても効果がない」

「イノシシの出る畑に行くのは怖い」

……そんな営農意欲の低下が、耕作放棄地の増加や離農を招き、農村の活力を奪っています。これが被害額として報告される数値以上に深刻な問題です。

この悪循環を断ち切るために熊本県が提唱しているのが、「集落で行う」対策の優先順位を明確にした「えづけSTOP!」対策の4ステップです。

  1. STEP 1:みんなで勉強(正しい知識の習得)
  2. STEP 2:環境整備(よせつけない工夫)
  3. STEP 3:柵で守る(侵入防止の徹底)
  4. STEP 4:捕獲(加害獣の除去)

この記事では、集落が行うべき獣害対策の順番を熊本県の指針を基に解説します。

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2. 「対策の3本柱」と「4STEP」の違い:主体は誰か?

 これまで、対策の基礎としてよく知られているのは「捕獲(とる)、侵入防止(まもる)、生息環境管理(よせつけない)」の3本柱です。一方、熊本県の「4STEP」はこの3本柱を基に、農家・住民の皆さんが「どの順番で動けば迷わないか」を示した、実践的な住民主体のロードマップです。

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「3本柱」熊本県「4STEP」
位置づけ国・県・市町村・農家・住民が何をすべきか(技術的理論)農家・住民がどの順で動くか(行動指針)
特徴3つが並列順序が直列
ゴール被害防止の「手法」の浸透「地域ぐるみ」の対策

 「まずは罠をかけよう」「とりあえず柵を立てよう」と、ステップ3や4から入っていませんか? それが失敗の入り口かもしれません。

 4STEPは、『行政や捕獲者に頼り切るのではなく、自分たちでできることから始める』ための地図です 。

あわせて読みたい:3本柱の詳しい解説

3.  イノシシ・シカ被害をゼロにする!『えづけSTOP!』4ステップの具体策 

 具体的に4STEPを見ていきましょう。

STEP 1:みんなで勉強(正しい知識の習得)

 農家・住民の皆さんが最も身近に取り組むことのできることが「勉強」です。「勉強」というと拒否感をもつ方も多いと思いますが、この「勉強」こそが対策を成功に導くキーなのです。

学んでほしい項目(一例)

  • 農家・住民自身による「無意識のえづけ」が実は被害拡大の要因になっている
  • 被害をもたらすイノシシなどの生態を知る
  • 柵の種類と特性、正しい設置・維持管理方法を知る
  • 「被害防止のための捕獲」を理解する

 あわせて読みたい:STEP1の事例「みんなで勉強」

STEP 2:環境整備(よせつけない工夫)

 STEP1で、無意識のえづけが問題だと理解したうえで、集落に潜むエサやひそみ場を除去します。そうすることで、野生動物にとって集落を「居心地の悪い場所」に変えるのです。このとき、集落のエサ場やひそみ場になっている個所を点検し、地図上に落とし込む「集落点検」を行うことが効果的です。

環境整備の例

  • 収穫しない野菜や果実、間引いた株などは、農地に残したままにしないで、ネットで囲んだり埋めたりして、野生動物が食べられないようにする
  • 野菜くずや家庭から出た生ごみは庭先に放置しないで、コンポスト等を利用する
  • タケノコや竹藪を管理してできるだけ残さず収穫する
  • カキやクリ、ビワなど誰も管理していない放任果樹は、合意の上伐採する
  • 果物、ジュース、菓子などのお墓のお供え物は、お参りが終わったら持ち帰る
  • 2番穂(ひこばえ)が出る前にすきこむ
  • イネやムギなどの落穂は放置せずすきこむ
  • 使っていない田畑の雑草を除去し、ひそみ場を減らす

 あわせて読みたい:STEP2の事例「環境整備(ヤブの除去)」

 あわせて読みたい:STEP2の事例「集落点検」

STEP 3:柵で守る(侵入防止の徹底)

 STEP2で、集落を「居心地の悪い場所」にしても、「里の味」を覚えた野生動物は執念深く田畑を狙います。1日のほとんどをエサを探し回るのに費やす野生動物にとって、栄養価が高く一か所にまとまっているエサ(里の食べ物)はとても魅力的だからです。

 そんな野生動物に田畑を荒らされないように、柵でしっかり守るのがSTEP3です。ここでもSTEP1の学びが欠かせません。事前に学んでおかないと、いざ設置!となったときに「なんとなく」でやってしまい、間違いだらけの柵になってしまいます。不備が多いとせっかく時間とお金をかけたのに結局被害に遭う、ということになりかねません。

柵で守るポイント(一例)

  • 被害をもたらす野生動物にあわせた柵にすること
  • 選んだ柵の効果を引き出せるような設置ルートとすること
  • 柵を維持管理しやすいように設置ルートを整備すること
  • 正しく設置すること(隙間を作らない、柵線の高さを適切にするなど)
  • 電気柵は24時間通電すること(流れていない時間があると「痛くないもの」と学習されてしまう)
  • 「設置して終わり」ではなく、柵の効果を継続させるため、定期的に点検・整備を行うこと(特に電気柵の草刈り!)

 あわせて読みたい:STEP3の事例「柵の勉強会」

 あわせて読みたい:STEP3の事例「柵の設置講習」

STEP 4:捕獲(加害獣の除去)

 執念深く田畑にアタックしてくる個体を「加害獣」と呼びます。この個体を捕獲することが被害を防ぐ最短ルートです。

 「里の味」をしらない山のイノシシをいくら捕まえても、「加害獣」を捕まえない限りは被害が減ることはありません。「山の10頭より里の1頭」といわれるのはそのためです。

 また、箱わなでのイノシシ捕獲では、家族丸ごと捕獲することが重要です。一部だけ捕獲し、数匹逃がしてしまうと、箱わなへの警戒心が高まり、二度とその数匹を捕まえることができなくなってしまいます。

捕獲のポイント(一例)

  • 「山の10頭より里の1頭」…加害獣を捕獲する
  • 箱わなでのイノシシ捕獲は、ウリボウだけでなく親子丸ごと捕獲する
  • 箱わなや大型捕獲檻などのエサによっておびき寄せる捕獲は、「里の中」を避け、「里と山の境界線の山側」で行う

4. なぜこの順番なのか?農家・住民の取り組みやすさ

 3本柱の対策をうまく機能させるために「勉強」が必要なことは分かったけど、なぜこの順番なのか?と、感じられた方もいらっしゃるのではないかと思います。

 この順番の意味は、「2. 「対策の3本柱」と「4STEP」の違い:主体は誰か?」で触れた「主体」にあります。

 獣害対策というと「とにかく捕獲すればいい」というイメージが定着してしまっています。しかしながら、被害に困っている農家・住民の方の多くは狩猟免許を持っていません。このため、「誰か(行政・捕獲者)に何とかしてほしい」となってしまうのだと考えられます。

 一方で、獣害対策においては、実は農家・住民の方にもできることが多くあります。そしてそのことこそが、獣害を防ぐうえで必要不可欠なものです。

 この「農家・住民の方にもできること(取り組みやすいこと)」に重点を置き、ステップ化したのが「えづけSTOP!」の4ステップなのです。

  • 必要な時間とお金が少ない「勉強」
  • 収穫残渣の処分などの身近な対策「環境整備」
  • 時間とお金を要する「柵で守る」
  • 資格も時間もお金も必要な「捕獲」

 あわせて読みたい:「まずは勉強」の意義をデータから読み解く

5. まとめ:あなたの集落の未来を守るために

 鳥獣被害対策は、最新のわなを導入することでも、ただ柵を導入することでもありません。

 一番大切なのは、「理解」です。

 どんなに高価な柵も、一箇所の隙間から無効化されます。

 どんなに捕獲をしても、集落にエサがあれば新しい個体がやってきます。 

 まずは「みんなで勉強」することから始めてください。

 地域を一緒に歩き、「無意識のえづけ」を見つけ、一つずつ止めていく。

 正しい柵の使い方を知り、適切に設置・維持管理を続ける。

 その地道な一歩一歩こそが、10年後、20年後も子供たちが笑顔で農業を続けられる、持続可能な農村環境を作る鍵となります。

 熊本県が提唱する「えづけSTOP!」の精神は、集落の未来を照らす道標です。私たちも、皆様の第一歩を全力で支えます。共に歩み出しましょう。

6. 参考文献

鳥獣被害の現状と対策(農林水産省農村振興局 令和8年4月)

みんなで学ぼう 鳥獣被害対策 (熊本県むらづくり課 2021年3月)

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