【初心者向け】獣害対策の「三つの柱」とは?被害を減らすための基本原理を徹底解説

1. はじめに:なぜ今、改めて「獣害対策」を学ぶ必要があるのか

野生鳥獣による農業被害は、今なお極めて深刻な状況にあります。2024年度(令和6年度)の全国の被害額は、イノシシが約45億円、シカが約79億円に達しています(農林水産省 2025)。被害額は2017年度以降「高止まり」しており、農家をはじめとする関係者の皆さんが懸命に努力されているにもかかわらず、決定的な解決に至っていないのが現状です。

そして被害額以上に深刻な問題は、離農や耕作放棄の一因になることです。高齢化や人手不足など農業を取り巻く環境は厳しい状況が続いています。ここに獣害がダメ押しの形で加わることで、営農継続の心を折ってしまうのです。

なぜ被害は減らないのでしょうか? その大きな要因は、対策が「柵を設置して終わり」「捕獲偏重」といった不十分な取り組みに留まっていることにあります。

獣害対策を「徒労」にしないための入り口は、実はシンプルです。その根幹となる「三つの柱」と「学ぶ重要性」を正しく理解し、組み合わせることで、状況は劇的に変わります。今回は、この基本原理を紐解いていきましょう。

2. 獣害対策の根幹「三つの柱」の全体像

 野生動物対策の手法の根幹は「三つの柱」です。これらは、私たちの暮らしに例えるとイメージしやすくなります。

  1. 農地の環境改善:動物を寄せ付けないための「地域の掃除」
  2. 侵入防止:田畑を物理的にガードする「住まいの戸締まり」
  3. 加害個体の捕獲:トラブルの元となる個体を減らす「トラブル源の摘み取り」

この三つは、どれか一つが欠けても効果が減少してしまいます。セットで取り組むことこそが、獣害に強い地域づくりの鉄則です。

3. 第一の柱:農地の環境改善(「野生動物を寄せ付けない」環境作り)

環境改善とは、動物にとっての「隠れ家」と「エサ場」をなくすことです。これは行政の支援を待たずとも、住民の皆さんが今日から始められる最も基本的な対策です。

  • 誘引物の除去(「エサ場」をなくす):放任されたカキ・クリなどの果樹や、収穫後に放置された野菜のクズ(残さ)は、動物にとっての「ご馳走」です。特に昨今話題のクマ対策では、カキの木の伐採や実の徹底回収が非常に有効な手段となります。
  • 緩衝帯の設置(「隠れ家」をなくす):動物は身を隠せる茂みを好みます。竹林を整備し、林縁から農地を引き離す「緩衝帯」を作りましょう。また、耕作放棄地も隠れ家になるため、特に耕作地の近傍の放棄地はヤブにならないよう管理することが必要です。

4. 第二の柱:侵入防止(「田畑を物理的にガードする」技術)

環境を整えたら、次は物理的な「戸締まり」です。相手(獣種)に合わせた「鍵」を使い分けるのがポイントです。

  • 獣種別の最適な柵:イノシシやシカにはワイヤーメッシュ柵や金網柵、電気柵が一般的です。
  • サルには「おじろ用心棒」:サル対策では、住民による組織的な「追い払い」に加え、「おじろ用心棒」のような、サルの身体能力を考慮した複合的な柵(ワイヤーメッシュ柵+電気柵など)が効果を発揮します。
  • メンテナンスは「チーム」で:柵は設置して終わりではありません。下草が伸びて電気柵が漏電したり、隙間ができたりすれば、そこが「侵入経路」になります。だれか一人にこの負担を押し付けるのではなく、地域で管理日を決めるなどして分担することが継続のコツです。

5. 第三の柱:加害個体の捕獲(「トラブルの元を絶つ」)

柵を設置しても、それを何とか突破しようとする執着心の強い「加害個体」がいます。こうした個体をピンポイントで捕らえるのが、第三の柱です。

  • 技術の向上と適所での捕獲:箱わなやくくりわなの技術指導により、捕獲効率を向上させることが重要です。また、柵で囲いきれない河川付近などの侵入ルートを狙い撃つ捕獲も、集落への侵入数を減らすために極めて有効です。
  • ただ数を追っても効果は出にくい:農林水産省の鳥獣被害防止総合対策交付金に対して財務省が行った予算執行調査(令和6年6月)では、捕獲数と被害額の減少額には相関がないと報告されました。もちろん数を減らすことは長期的には効果があると考えられますが、短期的に効果を出すには加害個体を捕獲することが最も有効です。

6. 三つの柱を組み合わせる「相乗効果」の論理

それぞれの柱を単独で行うよりも、組み合わせることで初めて「1+1+1=3」以上の効果が生まれます。

対策の組み合わせ期待できる効果
環境改善 × 侵入防止動物を農地に近づけず、万が一近づいても物理的に入れない。
侵入防止 × 捕獲柵で動きを制限し、河川や開口部から入ろうとする個体を狙い撃つ。
三本柱の同時実施被害の大幅な低減が可能になる。

7. 成功の鍵は「地域ぐるみ」と「学び」にある

獣害対策は、個人の力だけでは限界があります。

  • 「地域と畑は自分たちで守る」意識:捕獲者や行政にばかり頼っていては被害を抑えることはできません。自分たちでできることは何か?を地域で学び、実践していくことが対策成功の第一歩です。
  • 地域ぐるみでの協力体制:対策は「一度やったら終わり」にはなりません。環境整備や柵、捕獲の効果を発揮させ続けるには、継続することが重要です。行政、農家、住民、捕獲者それぞれが、それぞれにできることを支えあいながら続けていくことが獣害対策の強い武器になります。
  • 「急がば回れ」の学び:まずは敵(動物)と正しい手法を知ることから始めましょう。それらを理解せずに安くはない柵を立てるよりも、正しい知識を学ぶことが、結果として最も効率的な被害低減への近道になります。

8. まとめ:持続可能な地域を守るために

獣害対策の「三つの柱」は、自分たちの手で地域や田畑を守るための「最強の武器」です。まずはこのことについて学ぶ機会をもち、身近な「地域の掃除(環境改善)」から始め、仲間と共に「戸締まり(侵入防止)」と「摘み取り(捕獲)」の体制を築いていきましょう。持続可能な未来は、基本の徹底から始まります。

8. 監修:稲葉達也

本記事は、イノP代表取締役/農家ハンター 稲葉達也が監修しています。

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