またイノシシにやられた!
工夫を凝らして対策をしているのになぜやられてしまうのか?そんな悩みをお持ちの方が多いのではないでしょうか?
なかなか被害が防げない原因には、「勘違い」が潜んでいます。
被害を減らすためには、「敵を知ること(生態の理解)」「正しい対策を知ること」がすべての出発点です。本記事では、イノシシの特性、痕跡、そして集落全体で実行すべき3つの具体的ステップを解説します。
イノシシの特性と生態
効果的な対策を講じるためには、まず彼らのことをを正しく知る必要があります。
「猪突猛進」は誤解?実はとても慎重な性格
- 実は慎重な性格: アニメや漫画の影響で「見境なく突進してくる」イメージがありますが、実際のイノシシは非常に慎重な性格です。身を隠せる環境を好み、開けた場所には警戒してなかなか出てきません。また、環境の変化にも敏感に反応し、その変化が安全かどうか様子見する習性があります。
- 跳躍は好まない: 1mの高さを飛び越える・よじ登る個体もいますが、飛び越えることは好きではありません。隙間があればくぐり抜ける行動を最優先します。
70kgを持ち上げる怪力!物理柵は「地際」が命
- 怪力ともぐりこみ: 鼻先で70kgもの重量を持ち上げる怪力を持ち、成獣でも20cmの隙間があればもぐりこんで抜けてしまいます。ワイヤーメッシュ柵や金網柵などの物理柵の地際対策が甘い場所は、彼らにとっての「入り口」と変わりません。
本当は昼間動きたい!
- 実は昼間活動する動物: 夜間に活動するイメージがありますが、本来は昼行性の動物です。しかしながら、人間を避け、安全にエサを食べるために「夜間」に活動することが多いです。人に慣れ、昼間でも平気で出てくる個体もいます。
イノシシは雑食性
- 雑食性: 植物の根、果実、昆虫の幼虫、ミミズ、小動物など様々なものを食べます。ミミズが好物とよく言われますが、実はそうではないことが分かっています。イノシシは土を掘り、石をひっくり返してエサを探す習性があります。そうすると自然とミミズとの遭遇率が上がります。後でエサが見つけられるかどうか分からないことを踏まえると、今あるものを食べてしまおうということで、よく食べていると考えられています。
子を年に1回4~5頭生む
- 年に4~5頭生む: 年に1度、春頃に4~5頭を出産します。10頭以上のウリボウを連れて歩くイノシシの姿を見かけることも多いですが、実は血縁関係のある複数の雌が連れだって行動しているケースがほとんどです。
- 増えているのは人間の行動が一因: エサが不足する冬に自然死するウリボウが本来多いですが、冬も含めて一年を通じての農作物被害や無意識なえづけによるエサの確保によって、死亡率が下がっている可能性が指摘されています。

-1024x576.jpg)
電気を通すのは「鼻先」!
- 電気を通さない毛: イノシシの「剛毛」は電気をほとんど通しません。ショックを与えることができる唯一の急所は、毛の生えていない「鼻先」だけです。このため、電気柵では柵線(コード)の高さを、イノシシの鼻が当たる20㎝と40㎝にキープしなければなりません。
エサへの執着心と高い学習能力
- 場所への強い記憶: 非常に高い記憶力(学習能力)を持ち、一度でも「ここは安全にエサが食べられる」と学習した場所には激しく執着します。逆に、一度でも強烈な恐怖(電気ショックなど)を経験した場所は、長く避ける傾向にあります。
- 光や音、臭いは逆効果になることも: 光や音、臭いによる対策も行われていますが、逆効果になることもあります。先述のとおり慎重な性格なのではじめは警戒して近寄らなくなっても、危険がないと判断されてしまえば逆に、光や音、臭いのある場所にエサがあると学習されてしまうのです。
——————————————————————————–
イノシシの痕跡を見極めるポイント
被害を早期に特定し、対策に繋げるための現場サインを整理しました。
ただし、サインでの見極めは実は難しいです。単一のサインでの特定は困難な場合が多く、複数のサインを組み合わせて判断します。
より確実なのは、トレイルカメラなどで映像・画像を撮影することです。
| 痕跡の種類 | 特徴と見極めのポイント | ||
| 食害の跡 | ミカンなどでは中身だけを器用に食べ、皮をきれいに残すのが特徴。稲はなぎ倒して踏み荒らします(遊び場としての利用されることも)。 | ミカンの食害![]() | 稲のなぎ倒し![]() |
| 掘り返し | エサの根っこ探しや遊びによる大規模な掘り返し。耕作放棄地との境界に多く見られます。 | 掘り返し跡![]() | |
| 足跡と糞 | 二つに割れたひづめの形が明瞭に残ります。シカと違って湾曲しているのが特徴ですが、実際には見分けるのは難しいです。四つのひづめの跡が残っていることもあります。糞は食べたものにより形状が変化しますが、粒状のものがひとかたまりの棒状になっているものが代表的です。 | イノシシの足跡![]() | |
| ヌタ場 | 体についた寄生虫を落とすために泥浴びをした跡。近くの電柱や木に体をこすりつけた「泥(こすり跡)」がないか確認してください。 | 泥こすり跡![]() |
実践的イノシシ対策:3つのステップ
「柵さえ立てれば解決する」「とにかくたくさん捕れば解決する」という思い込みは捨ててください。
ステップ1:無意識の「餌付け」を止める(環境改善)
まずはイノシシを集落に呼び寄せない「環境作り」が必要です。
- エサ場の徹底解消: 収穫残渣(収穫後の野菜くずなど)、柿・ビワ・クリ・ミカンといった放任果樹すべてイノシシにとっての「ご馳走」です。これらを放置することは、人間が「無意識の餌付け」を行っているのと変わりません。
- 潜み場所の除去: 農地周辺のヤブを刈り払い、2〜3mのバッファーゾーン(見通しの良い環境)を確保してください。イノシシは姿を隠せない開けた場所を嫌います。
ステップ2:電気柵やワイヤーメッシュ柵の設置とメンテナンス
柵の効果を発揮させるには、正しい設置とメンテナンスが不可欠です。
- 電気柵の鉄則:
- 高さ: 柵線(コード)の高さを必ず「地面から20cm・40㎝」に設定し、敏感な鼻先に直撃するようにします。
- 運用: 「夜だけ通電」は厳禁です。昼間の侵入や、通電していない時間を学習させないために24時間通電を徹底してください。
- 管理: 線に草が触れると漏電し、電圧が低下します。定期的な草刈りと電圧チェックが成功の秘訣です。そして冬場(オフシーズン)でも撤去しないのであれば通電を継続して、電気柵が怖いものだと覚えさせます。

20㎝と40㎝のところに印をつけた棒で、柵線(コード)の高さをチェックしましょう!
- 物理柵(ワイヤーメッシュ・金網柵):
- 格子サイズは10cm以下を選んでください。それ以上大きいと頭を突っ込んで押し倒されます。
- 地際の隙間をなくし、掘り起こしによるくぐり抜けを徹底的に封じます。スカート(地際の折り返し部)がついているのを選ぶのが望ましいです。
- 柵の周辺の草刈りを徹底します。柵が草に覆われてしまうと、破損状況や破損等による侵入箇所が分からなくなってしまいます。
ステップ3:加害獣の「戦略的捕獲」
環境改善と柵設置を前提とした上で、捕獲を行います。
- 「山の10頭より里の1頭」: 山奥に生息する個体(非加害群)ではなく、人間の隙を突き、農地の美味しい食べ物の味を覚えてしまった「加害個体(里の個体)」をターゲットにしてください。
- 家族単位での一網打尽: 箱わなで親(成獣)を逃がしてウリ坊だけを捕獲すると、生き残った親は箱わなへの警戒心が極限まで高まり、二度と捕獲できない「スレ個体(わなを見抜く賢い個体)」へと進化してしまいます。箱わなでの捕獲の際は、トリガーをうまく調整して親子丸ごと捕獲することが必要です。
——————————————————————————–
まとめ:集落全体で取り組む「獣害に強い地域づくり」
鳥獣被害対策は、個人の努力だけでは限界があります。まずは集落全体で「敵」や「正しい対策」について学ぶ機会を持ち、個々人の対策のレベルアップを図りましょう。
そして、個々でのバラバラの対策は費用対効果が低くなりがちです。また「あいつが柵を張ったからうちの畑に被害が出た」などのあつれきにもつながりかねません。集落全体で対策を進めていくことが効率的・効果的です。皆で集まり「集落マップ(点検図)」を作成し、被害箇所や隠れ場所、エサ資源を「見える化」することから始めてください。
対策は「柵を張ったら終わり」ではありません。点検と評価を繰り返すPDCAサイクルこそが、イノシシに「ここはエサがなく、危険な場所だ」と教え込む最短ルートなのです。
——————————————————————————–
参考文献
- 熊本県「これならできる!鳥獣被害対策の手引き」
- 熊本県「みんなで学ぼう鳥獣被害対策」
- デーリィマン社「酪農の鳥獣被害対策ハンドブック」
- 農文協プロダクション「行政担当者が知っておくべき獣害対策の基本」
- 農林水産省「野生鳥獣被害防止マニュアル【総合対策編】 -令和5年3月版」
監修:農家ハンター 稲葉達也
本記事は、イノP代表取締役/農家ハンター 稲葉達也が監修しています。

鳥獣被害対策ガイド.png)






